あなたの腰痛が治らない理由 その4 脳の薬箱を開けて痛みをコントロールしよう
腰痛が治らない理由。ブラックボックスといわれる脳の話。
みなさんが感じる痛みは全て脳で感じています。
例えば、腰痛が精神的もしくは感情的な状態が脳に悪影響を及ぼして、痛みを助長する可能性があります。
精神的?
私の腰痛が精神的なものといいたいの!?
なんて、怒られるかもしれません。
ちょっと当たっていて、ちょっと外れています。
痛みが10段階あって、0が全く痛くない、10が死んでしまうほどの痛みとします。
腰痛が1あるとすれば、精神的、感情的変化でそれが3にも4 にもする可能性があります。
精神的状態が悪いとき、それ自体が痛みを作るということではありません。
ただ、リスクになります。
その2でお話ししたように、力学的・運動学的要素に精神的・感情的要素が加われば、腰痛になる可能性もあります。
アフリカのハッザ族という、腰痛がゼロという民族がいます。
ハッザ族に腰痛はないか聞いてみた人がいます。
答えは→ 腰痛になるなんて、なんか重大な病気にかかっているのでは?
と疑問を持たれます。
世界の研究者は、
”腰痛は力学的な因子以外に何か他の因子があるのではないか?”
と感じました。そして、精神的、感情的変化や、脳について研究され始めたようです。
ちなみに、画像所見で,例えば腰の椎間板ヘルニアみたいな病的状態がある人10名並べてみると、痛い人は3人くらいです。
他の変形性腰椎症や脊椎狭窄症などの病的状態も同じくらいの割合と言われています。(Savage RA. et al,1997 )
ですので椎間板ヘルニアなどの病的状態が痛みを持続させることには疑問が生じます。
うそ?病気が腰を痛くしているんじゃないの?
なんて、そんなのは昔話です。
腰痛によって、重大な危険があることは”まれ”です。
腰痛のある人で、今すぐに重大な危険がある人は1%未満でしょう。
そして、腰痛の80%は原因不明とまで言われています。
その80%の中には、精神的、感情的なものが脳に悪影響を及ぼすことで腰痛を引き起こす可能性があります。
そこで今回は、
について考えてみたいと思います。
それでは一つずつ説明しましょう。
精神的な状態で痛みが変化する
例えば、空手の試合、団体戦2勝-2敗で大将戦。
勝てば初優勝。
相手はいつも戦ってきたライバル。実力は同じくらい。
今のところは勝ち越している相手。負けられない。
始めの号令がかかる。
相手はすぐさま上段(顔面)への刻み突き!!
痛い!!
結構強く当たっているが、相手のポイント!!
やばい!!とりかえさなきゃ!!
って時に、痛みと向き合っているか?
ある程度は痛いけど、強くは感じないはずです。だって、勝ち越しているし、勝てば優勝できるし。
逆転する方法を頭の中でいろいろと考えている状態。
痛いと感じている場合ではありません。
もう一つ例。
明日、空手の試合!!
明日は優勝できるチャンス。
俺の蹴り技が調子よければ、絶対に負けない。
と、考えながら歩いていると・・・
バナナの皮に滑ってごろーーん!!!
足をくじいた!!よりによって軸足!!
あーちょっと腫れている!!まずい!!まずい!!
というときは、結構痛くなります。
痛みに集中している状態です。
2つの例。わかりにくいですかね?だって空手家なんだもん。実際私が体験してます(20年以上前)。
このような説明は神経的、脳で感じる痛みの研究で有名なDavid Buttler氏と痛みの専門家では知らない人はもぐりだと言わざるを得ないLorimer Moseley氏が書いているEXPLAIN PAINで書かれています。
この本では、戦場で足が吹き飛んだ兵士(逃げなくては命の危険があるので痛みを感じにくい)と、蜂に指をさされたバイオリニストで説明されています。
噂では、Buttlerさんが家から出版しているようなので、日本で本は買えないようです。Kindleでは買えるようなのでリンクを張っておきます。
すべて英語バージョンなので、英語好きな方は読めるかも。
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以上の例は、精神的に不安な状態や恐怖を感じたりする場合に痛みが悪い状態にいく例です(戦場の例は恐怖ではなく、痛みよりも大事なことに目を向けている結果痛みを感じない)。
日常生活や仕事上でそのようなことがあるでしょうか?
仕事がストレスという人も多いと思います。
そして、ストレスは腰痛と密接に関係しているようです。
では、ストレスがどのくらい腰痛と関連があるのでしょうか?
以下は腰痛で有名な松平先生が調べたストレスと腰痛の関係です(松平 他 2010)。
オッズ比というものを使ってストレスと腰痛の影響を見ています。
オッズ比は、1が基準。数が多ければ多いほど影響が強い。
例えば、腰痛の発生は働き甲斐がストレスと感じていると、働き甲斐がある人に比べて2.13倍高いとなります。
逆に技能の活用度がストレスの場合は0.94倍。ちょっと腰痛が少なくなるようです。
この表を見ると、働き甲斐、疲労感、仕事や生活の満足度などのストレスが腰痛と強く関連していると言えます。
ストレスは、腰痛と密接な関係があるようですね。
精神状態・感情で痛みが変化する理由
さて、それでは、なぜ上記のようなことが起こるのでしょうか?
脳はその痛みを、“意味のあるものか?”ということを判断しています。
上記のように、試合を左右する局面で、多少の痛みは痛みして判断しない可能性があります。
それが、“脳の中の薬箱”です。
脳内麻薬という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
脳内麻薬で一番有名なのはランナーズハイがあります。走っていると、だんだん苦しくなってきます。
しかし、長く走っていると苦しさが消えて、“走っているのが気持ちい〜”状態なることです。
この時、脳では、エンドロフィンが作られます。
エンドロフィンは、身体の中で作られるモルヒネです。
モルヒネは麻薬で有名ですね。痛みに対する強力な薬として、癌の痛みに対する治療としても使用されます。
ただ、麻薬なので一般的には使えませんが。
他にもカンビナイトとか言われる物質も脳で作られているようです。
さらに、脳の中のいろんな部位がネットワークを作り、これは薬箱を開けようとか決めています。
これらが働くと、痛み自体が弱く感じます。働かないと、痛みを強く感じてしまいます。
ちなみに、ランニングなどによって、脳内麻薬を生成し、痛みや不安を取り除くことが重要、と主張する研究者もいるくらい効果がありそう。
脳の中にも薬箱があるようです。しかもそれは作られた薬よりも強力で長続きします。
私の説明でわかりにくければ、こちら。
David Buttler氏がわかりやすく説明してくれています。
https://www.youtube.com/watch?v=lWkh5LrdrgQ
日本に来てくれるんですねー。
精神的・感情的な状態をよい状態に持っていける方法
では、どのようにして腰痛を治すことができるのか?
一つのヒントがオーストラリアのビクトリア州で行われた大規模なキャンペーンです。
Back Pain:Don’t Take It Lying Down(腰痛に屈するな!!)です。
まだ、テレビが主体の時代ですので、CMで啓蒙活動をしています。
有名な俳優などがCMで、腰痛は怖いものではない、危険な兆候がない場合は基本的にMRIなどの検査をしなくても改善する場合が多い、腰痛があってもできる範囲で活動(日常生活や仕事)を続けることを勧めています。(危険な兆候については次回)
結果、医療費を日本円にして30億円以上削減できたという結果でした。
これのどこが精神的な腰痛と関連しているか?
医療費30億円削減できた=医療が必要ない
それは、精神的に楽になったと解釈しても良いと思います。
なので、最近では、認知運動療法というものが腰痛治療に推奨されています。
認知運動療法とは、簡単に言えば腰痛があってもできることを増やす方法です。
腰痛があってできないから、腰痛があってもできた。という経験を増やす感じ。
そんな家ではできない?
できるかもです。
立っていることが辛くて、家事ができない。
から、皿洗い5分以上続けると辛いから、4分程度行ったらあらかじめ用意していた椅子に座って休む。
徐々に慣れていくと、
最初は4分だったのが、10分できるようになった。
みたいな感じで進めていきます。
難しいけどやってみると、意外とできる人も多い印象です。
あとは、脳を活性化する方法
運動です。できる有酸素運動をやってみましょう。
歩くのが大丈夫であれば、ウォーキングを。
立って辛いから、歩くのはちょっと。という人は、ジムに行って、座ってできるエアロバイクを。
有酸素運動、筋トレに限らず運動を行うと、脳が活性化します。
脳が活性化すると、ストレスが吹っ飛ぶ可能性が高いです。
ちなみにこれについてわかりやすい本を紹介します。
この本では、腰痛には触れてません。
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ただ、運動がうつ状態などの精神的な状態を改善することが紹介されています。
それだけではありません。
この本では、精神的に改善するだけではなく、前向きになることも紹介されています。
そして、小学生では運動することで運動能力だけでなく、勉強の成績まで向上することも紹介されています。
すなわち、運動は、精神的な改善をするだけではなく、ビジネスや勉強の成績まで改善する可能性を秘めています。
出典は忘れましたが、ある学生たちに朝の授業前に心拍数を160以上の運動をさせると、集中力や判断力が向上したという研究もあります。
運動は、腰痛を治す!!とまでは言いませんが、だいぶ改善することはお約束します。
次に脳を喜ばせて腰痛を改善する方法
脳の中の薬箱を開けやすい状態にする方法です。
痛みを感じる場所の一つに、感情を司る部位があります。
喜んでいるときは、痛みを感じにくい。悲しいときや、恐怖を感じる時には痛みを感じやすい。
逆に、喜んでいる時や安らぎを感じているときは、薬箱が空きやすい状態です。
愚痴を言っている時には、脳は喜んでいません。
自分の痛みがどれほど大変かを誰かに伝えている時、脳は喜んでいません。
逆に、誰かを褒めているときは、脳は喜んでいます。
誰かと触れ合っている、ペットと触れ合っている時には脳は喜んでいます。
ですので、自分や他人を褒める、認めるという行為自体が、痛みを軽減する可能性を秘めています。
番外編として、チョコレートを食べたときは、脳は相当喜んでいるようです。
これも出典は忘れましたが、若い男女にキスをさせた時と、チョコレートを食べてもらった時では、圧倒的にチョコレートを食べたときのほうが脳は喜んでいたようです。
最後に興味がある方に痛みが関連する脳の領域と対処法について、図に示します。
できるだけ、気持ちが良い状態で動くができるようにしてみてくださいね!!
まとめ
1 精神、感情状態で痛みの感じ方が違う
2 痛みは脳の薬箱によって改善する可能性が高い
3 運動や人を褒める、チョコレートなどで、脳の状態をよくする=腰痛改善に向かう
R A Savage et al: The Relationship Between the Magnetic Resonance Imaging Appearance of the Lumbar Spine and Low Back Pain, Age and Occupation in Males, Eur Spine J, 6 (2), 106-14 1997
松平 浩 他:仕事に支障をきたす非特異的腰痛の危険因子の検討,日職災医誌,57:5─10,2009